07
May
呪い
熱よ。
熱よ。
われは血の月として生まれ出でたり。
舌の上には銀の塩を宿し、
人々はいひけり——
汝への愛は、冬が儚き陽を殺すごとく、
汝を滅ぼさんと。
まどろみの中に、われは兆しを見たり。
胸の臓に巻きつく、茨の冠を。
守らんとするたびに、口づけは
暗闇の中へ、灰のごとく散りぬ。
嵐の中に、汝は踊りをりき。
折れたる恐れの上を、裸足にて。
汝の目は荒ぶり、手は温かく——
まるで、恐るべきものなど
もはや何も残らぬかのやうに。
人々はわれに告げたり、汝の魔の香りを。
真夜中の息吹、灼くるがごとき触れを。
されど、これほど天つ国の心地よさを
われは知らざりき。
これほど黄泉の国が意味を持ちたることも。
もしわれが汝を深みへ引き込まば、
共に溺れてくれむか。
汝の潮が渇仰ならば、
われを青の果てへ攫ひ去れ。
われらは呪ひなり。
われらは炎なり。
罪を互ひの名のうちへ呼び込みながら。
天つ神は見ておはすれど、われらは意に介さず。
絶望の中に、王城を築く。
われらは毒なり。
われらは賢者なり——
警ひの標を越えて、互ひを飲み干しながら。
愛といふものが逆しまに返り得るならば、
せめてわれらを、呪ひとならしめよ。
汝の影を、黄金の嫉妬の糸もて
わが影に縫ひ込みたり。
汝の鼓動は、いにしへの悲劇より伸びる葛に
絡め取られたり。
汝を解き放たんとしたり。
されど夜明けの光は、ただわれを弱らせるのみ。
黄昏には、わが無垢はすでに失せてをり。
汝の名のみが、われの唇に許された言の葉なりき。
汝は悲しみを冠のごとく纏ふ、
黒衣の儚き女神よ。
されど汝がわれを砕くたびに、
汝のみが、われを再び立たしむるものとなる。
涙を、夏の雨のやうにゆるやかに落とせ——
われらの足元に枯れゆく薔薇の上へ。
汝を愛することが聖なる痛みならば、
この供犠を、全うさせよ。
われが災厄なりとも、汝はわれを神聖と呼びてくれむか。
汝の愛が主ならば、恥ぢることなく
心を、神へと捧げさせよ。
われらは呪ひなり。
われらは炎なり。
罪を互ひの名のうちへ呼び込みながら。
天つ神は見ておはすれど、われらは意に介さず。
絶望の中に、王城を築く。
われらは毒なり。
われらは神酒なり——
警ひの標を越えて、互ひを飲み干す。
後へは戻れぬ、禁忌の祭儀の中で。
暗闇の中へ堕ちてゆくならば——
天つ使ひさへ死を恐るる場所へ。
傷つきたる恋人らが、生の息吹を感じる場所へ。
われらは呪ひなり。
われらは炎なり。
星々は砕け散るやもしれず。
何ものも、この呪ひを書き換ふることはかなはじ。
われらは、叫びの後の静寂なり。
あらゆる夢の砕くる刹那なり。
愛がそのひとつのものなれば、ただ悪しくなるのみならば——
さらば、われらに。
われらを、呪ひとならしめよ。
熱よ。
熱よ。
われが汝の終はりならば、
汝はわれの、はじまりなり。