06 March

METAMORPHOSE   変 容  — Metamorphosis —

【序章|記憶の街】
| Prologue | Where Memory Walks Alone ||


サッポロでさ・・・

独りで生きてきたわけじゃない
あたりまえなのに ふと顔をあげれば そこには誰もいない
いつのまにか何処かへ行ってしまったようだ

みんな忙しいんだよ
いつまでも君と遊んでいられない
君があの人と失敗したんだって 独り などと強がったからじゃないのかい
ほんとは甘えたかった
本音でしょ

いいやそんなことは....
僕は愛していたし
今だって胸が痛くなるほどに想い出せるんだし
そんなこと....

ほれほれ それが証拠
靠れかかりすぎだよ それって

 痛いから
 避けてとおり・・・

それ あの人の....

そうだよ あの人の ・・・詩

たったの五行 あれしか詠まなかった 詩人って言えるのかい

言えないけど 言ってもいいと....

              思うかい?


【第一幕|sapporoの記憶】
|| Act I | The Quiet Years in Sapporo --

ひとりでsapporoに住んでみた
あのまま ずっと....

病で倒れたM子の付き添いとなり
東京へと戻ったのは 2001年の春

あれからひとまわりの干支を過ぎてみれば
もう昔になっている

わたしも老いたがM子も老いた
(年齢は忘れたが....)

 なにかがなされず
 なにかが忘れ去られ
 なにかが欠けていて
 なにかがわだかまる


【第二幕|音の入口】
|| Act II | Toward the Source of Sound --

音色を追って
ある音色を求めて わたし は
その源(みなもと)へ行った
響きあうことなく どこまでも 透って去ってゆく音色は
山脈を跨ぎ 大洋を滑ってゆく



おんなが入水し流されて
深く深く沈んでいる海溝には 淀んだ生命のはじまりのような漆黒のひかり

指先が踊り 白は黒を挟んで 黒は白を挟んで 流麗である



【第三幕|五つの変容】
|| Act III | The Fivefold Transformation --

Metamorphosis3
|| 変容三 ||

ウルフは
その凛とした姿とは裏腹に
弱さと気難しさで神経を病んでしまった
帰る町を喪って
ただこの川底に身を投げる定めを知った
まっすぐ前を向いて見えるのは
漆黒の希望


Metamorphosis4
|| 変容・四 ||

水はまるで沈没しつつある船底のように部屋に満ち
おんなを包む
小さくおんなは叫んで水から起き上がる
満開を過ぎて散り始めた一本の桜の樹がある駅へと急いだ
誰を待つのでも どこへ行くのでもなく

呆然と改札口に視線を結んだまま 息を止めた
永遠に


Metamorphosis5
|| 変容・五 ||

 愛は何かを失うことであった
  風が抜ける窓辺に腰掛けて
   愛が過ぎ去った空(くう)の時に巡らす
                影と陰
    終わりにしなければならないものは
   愛であったかも知れない
  あなたとの年月であったかも知れない
 せめて小さく微笑んで

 飛ぶ

Metamorphosis2
|| 変容・二 ||

縹色の音楽を聴く                ※ はなだいろ(#2B7396)
夕刻手前の海の色か
あるいは
憂鬱手前の溜め息の瞬間か

ピアノがふさわしく
バイオリンでは出せない音楽
リズムはあるが聞き流すことが出来る
聞いていると

覚醒しているのに
ガクッと身体が突然に墜ちるような
現から夢へと入り込む狭間のメロディを伴っていて
どこかこそばゆくゾクッとする


Metamorphosis1
|| 変容・|||

くるぶしを横切る赤い紐を結ぶと
女は街を巡る
カッカッ カッカッ 
アスファルトと踵の奏でる天涯孤独
彩りのガラス窓の向こう側には
衝動と包容があった
扉を開けるたびに思うことがあった
あの日すべてを失って良かったのかも知れない

失えばこそ
得ることが喜びとなるのだから

どこまでも深く路地が曲がりくねって続くこの街に
迷い込んだ女は
まさに逍遥し続けたのだ
踝で揺れる赤い紐の先だけが徒労を知らない



【終章|波と残響】
|| Finale | The Sea, and the Echo of Silence ||

その女の曲線を纏った夜を
男は愛せなかった
地を這う小鳥を見るように
無意識な視線の先だけが流れてゆくのだ

「こんなんで良いのだろうか・・・」
「いいのだな」

自問すると曲線を脱ぎ捨てた女がすべてを見透かしたように手を伸ばして

「どうしたの?」

 気づいているのだ
 すべてに

ありとあらゆる時間を知り尽くした女は
失ってもかまわない時間も知っている



はまなすの赤の向こうの青い海が ほどなく朱色に染まる頃
たたずむ稜線のようなおんなのシルエットが 浮かび上がる
胸が熱くなることを恥じて 目をそらすが眼裏に焼きついた
おんなはまだそこにいるだろうか と目を開けると空が燃え
海が沸騰し旋風が起こり おんなは衣をはためかせて笑った

朱の残り陽さえ水平線を滲ませて ようよう蒼に染まり緞帳
旋風が静まり空の炎が夜の濃紺に融けてしまった 海の波間
おんなの妖しい微笑は 漂う孤涙船標旗の文様のように翳る
星々は帳を破る気配を漂わせながら 波がしらを刺し続ける
やがて漆黒の闇の中に 微かに銀色に煌めき揺れ落ちる気配


       それが、わたしの変容の残響。