sapporoでさ・・・
独りで生きてきたわけじゃない
あたりまえなのに ふと顔をあげれば そこには誰もいない
いつのまにか何処かへ行ってしまったようだ
みんな忙しいんだよ
いつまでも君と遊んでいられない
君があの人と失敗したんだって 独り などと強がったからじゃないのかい
ほんとは甘えたかった
本音でしょ
いいやそんなことは・・・
僕は愛していたし 今だって胸が痛くなるほどに想い出せるんだし そんなこと・・・
ほれほれ それが証拠
靠れかかりすぎだよ それって
 痛いから
 避けてとおり・・・・
それ あの人の・・・
そうだよ あの人の ・・・詩
たったの五行 あれしか詠まなかった 詩人って言えるのかい
言えないけど 言ってもいいと・・・
              思うかい?
※
ひとりでsapporoに住んでみた
あのまま ずっと・・・
病で倒れたM子の付き添いとなり
東京へと戻ったのは 2001年の春
あれからひとまわりの干支を過ぎてみれば
もう昔になっている
わたしも老いたがM子も老いた
(年齢は忘れたが・・・)
 なにかがなされず
 なにかが忘れ去られ
 なにかが欠けていて
 なにかがわだかまる
※
音色を追って
ある音色を求めて わたし は
そこへ行った
響きあうことなく どこまでも 透って去ってゆく音色は
山脈を跨ぎ 大洋を滑ってゆく
おんなが入水し流されて
深く深く沈んでいるだろう海溝には 淀んだ生命のはじまりのような漆黒のひかり
指先が踊り 白は黒を挟んで 黒は白を挟んで 流麗である
※
Metamorphosis3
ウルフは
その凛とした姿とは裏腹に
弱さと気難しさで神経を病んでしまった
帰る町を喪って
ただこの川底に身を投げる定めを知った
まっすぐ前を向いて見えるのは
漆黒の希望
Metamorphosis4
水はまるで沈没しつつある船底のように部屋に満ち
おんなを包む
小さくおんなは叫んで水から起き上がると
満開を過ぎて散り始めた一本の桜の樹がある駅へと急いだ
誰を待つのでも どこへ行くのでもなく
呆然と改札口に視線を結んだまま 息を止めた
永遠に
Metamorphosis5
 愛は何かを失うことであった
  風が抜ける窓辺に腰掛けて
   過ぎ去った愛以外の時に巡らす
                影と陰
    終わりにしなければならないものは
   愛であったかも知れない
  あなたとの年月であったかも知れないのだ
 せめて小さく微笑んで
 飛ぶ
Metamorphosis2
縹色の音楽を聴く                ※ はなだいろ(
#2B7396)
夕刻手前の海の色か
あるいは
憂鬱手前の溜め息の瞬間か
ピアノがふさわしく
バイオリンでは出せない音楽
リズムはあるが聞き流すことが出来る
聞いていると
覚醒しているのに
ガクッと身体が突然に墜ちるような
現から夢へと入り込む狭間のメロディを伴っていて
どこかこそばゆくゾクッとする
Metamorphosis1
くるぶしを横切る赤い紐を結ぶと
女は街を巡る
カッカッ カッカッ 
アスファルトと踵の奏でる天涯孤独
彩りのガラス窓の向こう側には
衝動と包容さがあった
扉を開けるたびに思うことがあった
あの日すべてを失って良かったのかも知れない
失えばこそ
得ることが喜びとなるのだから
どこまでも深く路地が曲がりくねって続くこの街に
迷い込んだ女は
まさに逍遥し続けたのだ
踝で揺れる赤い紐の先だけが徒労を知らない
※
その女の曲線を纏った夜を
男は愛せなかった
地を這う小鳥を見るように
無意識な視線の先だけが流れてゆくのだ
「こんなんで良いのだろうか・・・」
「いいのだな」
自問すると曲線を脱ぎ捨てた女が馴れ馴れしく手を伸ばして
「どうしたの?」
 気づいているのだ
 すべてに
ありとあらゆる
時間を知り尽くした女は
失ってもかまわない時間も知っている
※
はまなすの赤の向こうの青い海がほどなく朱色に染まる頃
たたずむ稜線のようなおんなのシルエットが浮かび上がる
胸が熱くなることを恥じて目をそらすが眼裏に焼きついた
おんなはまだそこにいるだろうかと目を開けると空が燃え
海が沸騰し旋風が起こりおんなは衣をはためかせて笑った
朱の残り陽さえ水平線を滲ませてようよう蒼に染まり緞帳
旋風が静まり空の炎が夜の濃紺に融けてしまった海の波間
おんなの妖しい微笑は漂う孤涙船標旗の文様のように翳る
星々は帳を破る気配を漂わせながら波がしらを刺し続ける
やがて漆黒の闇の中に微かに銀色に煌めき揺れ落ちる気配
When the blue sea beyond the red of the rose hips soon dyes itself vermilion,
A woman’s silhouette, like a ridgeline, emerges against the glowing horizon.
Ashamed of the heart’s burning, I avert my eyes, yet her form sears my vision.
Wondering if she still lingers there, I open my eyes to a blazing sky,
The sea boiling, a whirlwind rising, her garments fluttering as she laughs. 
 
The lingering vermilion sun blurs the horizon, slowly staining it blue, a curtain.
The whirlwind calms, the sky’s flames melt into the deep navy of the night’s waves.
Her bewitching smile wavers, like a pattern on a lone tear-stained buoy flag.
The stars hint at piercing the curtain, while whitecaps relentlessly stab the shore.
In the pitch-black darkness, a faint silver glimmer trembles and softly falls away.  
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