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          Gara Kuta
              
 
 
 
 
 ■風過傷恋
 この先に想い起こすことがあるとすれば、それは絶望したあなたの眼であり、悲しみの重底から見上げる滲む赤い唇。 ■藍空美貌 品川駅のとある雑踏呑み屋街の一角の薄い壁の隙間に、地下へと続く黄金色の管があるという話を聞いた その管の中から一匹の歌姫が捕獲されたのは、随分と時間を遡ったあたりの伝聞だ 事実かどうか・・・ 足に枷をはめられたまま発見されたとき、彼女の孔という孔から馨しい音楽が漏れ出ていたというではないか ハーハーという声とあたりに透けるように通る音楽のせいで、裏路地がひととき極彩色に輝いたというではないか今宵、純正七番の裸足の足跡は管から路地へ、路地から止まり木へ、止まり木から座敷へと渡り歩くという ■命である限り ひとり詩の流れ定まることはなく白い泡立ち岩肌を優しく抱いて未練熱く手を伸ばす 水の冷たさ情念の熱き沸騰を知り得ぬ河の悠々と永年を過ぎる様 マングローブの暗い森を抜ける鳥が一声し 連れ添う者もなく飛び舞う年月の堂々たる孤の在りよう逞しさ雄々しさ 飛翔すなわち旅する生命の本質疑いもない 希求するのは意味ではなく時間を抜けて行くこと空間を移動すること 行動と勇気こそが生命の意義であり生きること 停滞することは生命を失うことであるかのように飛び続ける そのことだけが生命そのもの 離れよそこを 扉を叩き壊せ 空と森と嵐と海と山々とに身を任せ飛び立つことだ 頓挫とか断念とか果たせず無念の死とか それでも飛び続ける以外を生命は欲しない 飛べ! ■蒼空彩華 春が過ぎ夏がやがて空となり 秋に引きずる冬をこそ 下衆な勘ぐり唯の人生 蒼空の下 彩り華の咲く ■憎悪快癒 謀られた憎悪誘発     無視  無視           瞑ると見えてくるもの  個人   貧困   自由 規定から離れることの真相があった    国家売買禁止           今日を生きる真相 宇宙を想うことだった 今日の花に触れることでもあった  哀しき赤い花がすべてを忘れさせる ■美貌藍歌 新宿の森の背後から現れ出る女たちの群れに、ふらふらと迷い込んだ美貌藍歌は大きく口を開けた管を曝した。 その管の中を覗き込んだ薄汚れた新宿の森の女たちは一斉に声を立てて哂い出すのだが、理由もないその哂いに美貌藍歌は後ずさりしながら管の先をとろけた皮膚で覆い隠したのだった。 よってたかって剥がそうとする力は美貌藍歌の皮膚を硬直させカラカラに乾涸びさせて、抵抗という意思の虚しさがポロポロ瘡蓋となって肉を侵す。 足の枷は外れぬまま美貌藍歌は彷徨う。いのちがカラカラと乾いていくのを左目の端に感じながら折れた股関節を引きずっていく。 一本の丸太を引きずったような痕跡をどこまでも残しながら生きていくのは哀しい。 美貌藍歌は、やはり哀しい。 赤提灯暖簾を潜って、おひとついかがですかなどと歪んだ笑みを浮かべてみても、美貌藍歌は凍っている。腐臭漂う路地裏を一本の痕跡を引きずって彷徨う姿は背ける目の端にさえ入らない。 蒼いつかの間の静寂は、遠くから音を連れてやってくる者を今日も待っているのだ。 美貌藍歌の哀しさを慰めるためでも、夜に彷徨う哀しさを賛美するためでもない。瀕した哀しみに満たされた美貌藍歌の、ただそこにある一本の管のように哂われながらあるという、ただそのことのためだけに。 今宵、純正七番の折れた脚どりは管から路地へ、赤提灯から暖簾へと渡り歩くという。 ■藍美宙心 蒸気の中で肌は眠る藍色の宙を仰ぎ臥し、胸がきつく締め付けられる夜気に浴しながら、いつ覚醒するのか知れぬ。 平らな夢の憶えの向こう側へは二度と逝けないと知っているはずだから、絞るような動悸さえ気付かれぬ無名匿名しびと。かくあらんと欲する心は彷徨える一匹のスカイフィッシュカマイタチは光の虚映悪戯な幻想は人のなせる希望という名が付く。 ■網目交感 網でしか繋がらないのは わたしの詩感でしかないと判っている 顔のないコトバから想い描かれる 優しさは ガラス細工の花のようではないか わずかな不用意が すべてを粉々にしてしまう もっと細心の柔らかで 抱いていなければいけなかった 手に握られた極彩色の光の粒を 無限に繋がり合う網の目の中にパラパラとこぼす 誰かが拾いあげて一から育てなおす 脆く姿の明確ではないフィギアを ガラス細工の光の粒を集めて 細心の柔らかさで包むとき すべての杞憂から救われるに違いない ■地下管身体 異形姿を晒しながら ネオンの下で生きて行くか 好奇の眼を意識しながら 異形は飯を食う 山手線外周り新宿ション便横丁 鉄路の地下管に身を滑らせば 遥か懐かし幾十年過ぎたる 若き折の夢哀しいか 雨に滑る車の音       シャーシャーと           子守唄 耳元で靴音が止む恐怖の夜さえ明ける ■相対化された早退 絶対の孤独 と 早退の孤独って 学校を早引けした ひとりが好きな 少年Mの 物語りで語られた科白だったと誰が言ったの? 早退した少年Mの絶対の孤独は 相対化された夕暮れ ■秘匿する時間経過 あらがうように 筋肉を鍛える 老いのはじまり青春のおわり 汗を流し 震える筋肉に何かを託すかのようだ 脅威百五 福井七十五 電位九十三 今日も負荷を与えギシギシと追い込む ときがおわるのを 知られまいとするかのように < 補文 > 窓に映した僕の顔 と歌った douji 僕は自分の顔を見るのが嫌いだ 嫌いになった そこには見知らぬ顔の男がいるばかり ヒゲを剃るとき決して向こう側の目を見ることはない それはそれは恐ろしいことに違いないのだから ■遊び詩わがいのち ※ あそび詩わがいのち ことほど左様に空廻る 今は冬 夏草の上に寝そべること叶わず いのち不安 絶えることのない プレセニールな思念 ※ 猛然と不安な湖の面から360メートルの湖底に何 を置き沈めたというのか 海面より100メートルも下に あるという湖底へ誘う手がある とでも言うのか 畏れを敬うかのように誘い出される精神の深みは 暗く重い水圧に押し潰されているだろうか ※ しからはじまる 湖の面を読むとき いのちをあそぶほかない自分に気づき 口の端が歪む ※ しらべながれて にてもにつかない たたかいのおわりに いつものねこがいた ※ しらぬまに にもつがおもく たすけてといいだせなくて よろよろと ※ しごとする にせのこころを たのしめと いいきかせてはからまわりする ※ しずかなよるなのかと にえきらないたたかいのひび くたくたになるまでななめにあるく いのち よびだし・・・