Old Color Pale and Vivid

無題



 「蛍」を読み終えたとき、私は嗚咽を堪えきれなかった。それは血縁の濃厚な繋がりの持つ得体の知れぬ粘ついた頑丈な糸のようなものに雁字搦めにされた暮らしの運命みたいなもの、逆らいがたいその定めは拒絶されるべきものであるのか、強く抱きしめるべきものなのか。
 親が子に為すことで、子が知らないことはきっとたくさんあるのだと気づかされた。逆の場合も当然にあるだろう。
 この物語の中では、蛍の死骸を娘に見せたくなくて三津子が朝目を覚ます前に蛍を蚊帳から出してしまう母。長姉の市子からこの話を聞かなければもしかしたら生涯知らずに過ごしてしまうことになっていたかも知れない。三津子は長姉である市子からその話を聞いたあと、だからと言って母を愛しいと思い直すことも叶わない。過去の長い関係から身に染みてしまった澱のような実感は消えるものではない。これは亡き父に対する私の混乱と似ていると思った。

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